8 Feb 2014
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大竹夏夫の「老活ニュース」第60号 2014年2月1日
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1か月ぶりになってしまいました。
今年2回目の老活ニュースです。
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「遺言書の検認」
「これ,お父さんの字じゃない!」
静まり返った審判廷に,長女(妹)花子の少し甲高い声が響いた。
花子がそのとき初めて見たのは,父の遺言書。
正確には,「父の遺言書だ」と,長男(兄)一郎が主張している便箋1枚である。
遺言書の検認手続。
それは,審判官(裁判官)の目の前で,
遺言書が入っている封筒を開封して,
なかの遺言書を確認する手続である。
東京家庭裁判所の14階にある第3審判廷。
そこは,テレビに出てくる刑事裁判の法廷とさほど変わりはない。
ただ,非公開なので,中に入る人は少なく,そのため広くはない。
10坪ほどである。
遺言者が自分で書く遺言は,自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)という。
自筆証書遺言は,かならず検認の手続をとらないといけない。
検認の手続をしないと,罰金(過料という)が科せられることになっている。
もっとも実際には罰金はほとんど実行されていない。
しかも,検認をしなくても,遺言が無効になるわけではない。
とはいえ,検認をしないと,登記所(法務局)では受付ないので,不動産の名義変更ができない。
銀行も受け付けないので,預貯金の名義変更や払戻しができない。
相続手続をするためにも検認は必要である。
花子の父は昨年11月22日に,病院で亡くなった。
享年87歳だった。
長く兄の家族と一緒に暮らしていたが,
1年前から心臓が悪く,ずっと入院していた。
84歳ころから少しずつ認知症も進んでいて,
入院する前は,何度も自宅を飛び出してどこかに行ってしまう,
いわゆる徘徊があって,兄夫婦は大変だったらしい。
ちなみに,母は10年前に他界している。
父が入院してしばらくすると,
父が先代から相続していた都内にある土地(約65坪)が売却されてしまった。
兄は小さなアパレル系の会社を経営しているが,
経営は芳しくない。
それが関係している。
兄が父に泣きついて,あるいは父を騙して,土地を売却させたのだ。
売却金は,兄が持っていったので,会社の運転資金に使われてしまっているはずだ。
花子が兄に何に使ったのか問い詰めたが,兄は結局説明できなかった。
それでも,兄の会社は今も厳しいらしい。
花子のところに,検認期日の呼出状が届いたのは,
四十九日も過ぎていない12月中旬であった。
花子が知り合いの弁護士に相談したところ,
「早い」という。
検認手続の申立てには,遺言者の除籍謄本やいわゆる原(はら)戸籍など,
遺言者の出生までの戸籍書類を集めないといけない。
それには相当な時間がかかる。
弁護士は「亡くなる前から準備しておいたのでしょう」と言っていた。
検認の期日に兄は来なかった。
代わりに,兄が頼んだ弁護士が来た。
兄は父が亡くなる前から,いろいろと準備をしていたようだ。
もっとも遺言書自体は,あわてて作ったらしい。
日付は父が亡くなる約1か月前。
そのころは,父も相当に弱っていて,字を書くのも難しかった。
「私の遺産は,すべて長男一郎に相続させます」
その遺言書の本文は,たった1行だけだった。
そして,日付と署名。
署名の下に印影がある。
その印影は,父が昔からよく使っている大きめの印鑑だ。
これが実印だと花子が知ったのは,先の土地が売却されてしまった件のときである。
兄はこの実印を持ちだして,売却手続の書類に捺印してしまった。
登記手続をした司法書士が病院に来たという。
司法書士によると,父は「売る」と言ったらしい。
しかし,認知症が進んでいたから,兄に言われたとおりに答えただけであろう。
花子は父が書いた手紙を何通も受け取っているので,
父の筆跡には見覚えがある。
「父は,もっと角がとがった字を書きます。
ここに書かれている字は,少し丸みがあります。
それに,父は病気でしたら,こんなにまともな字は書けなかったはずです」
そういうと,審判官は,花子にこう説明した。
「この検認の手続は,遺言書の状態を確認するだけなのです。
有効か無効かを判断するわけではありません。
もし,無効であるとお考えであれば,弁護士にご相談されたほうがよいでしょう」
その点は,すでに弁護士から聞いている。
遺言の有効性を争うには,裁判をする必要があるという。
これを「遺言無効確認訴訟」というらしい。
花子の反対側の当事者席に座っている兄の弁護士は,
手続の間,終始ポーカーフェイスであった。
花子がどんな反応をするのか,分かっていたかのようである。
花子は3人兄妹。
もうひとりは二女(妹)法子である。
法子も結婚して,実家を出た。
今は夫の仕事の関係で関西に住んでいる。
遠いから今回の手続には出席しないと花子に電話してきた。
法子は父の相続には関心がない。
むしろ,兄をかばうようなことを言う。
それがなぜなのか,花子には分からない。
花子も,遺言書がどんなものかは,ある程度予想はしていた。
しかし,予想以上にひどいものだった。
父は認知症で遺産のことを考えることはできなかったはずだ。
筆跡も明らかに違う。
筆跡鑑定や病院のカルテを取り寄せれば,
父が書いた遺言書ではないことは裁判で証明できそうである。
兄と争いたくはないけれど,訴訟は避けられそうにない。
検認手続は,15分程で終わってしまった。
花子は,審判廷を出ると,その廊下で,すぐに電話をかけ始めた。
それは法律事務所あてであった。
(終わり)
※この話はフィクションです。
ぜひご感想をお聞かせください。
このメールに対する返信でもかまいません。
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編集後記
検認手続を分かりやすくお伝えするために想定事例を書いていたら,
小説風になってしまいました。
分かりやすくするために,何度も書き直しました。
そうしたら,あっという間に3週間。
小説を書くのは時間がかかるのですね。
素人はありますが,少しでも分かりやすくお伝えできるように
これからも想定事例を考えたいと思います。
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大竹夏夫
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